ボクは生まれてまだ1か月ちょっとの黒猫である。名前はまだない。
ここには、猫がいっぱいいて、消毒薬のにおいがする。団地のように積まれたオリがあり、そのうちの1つに、一緒に産まれた小さな妹といる。
産まれてからしばらくしてお母さんとはぐれて、妹と一緒にここに連れてこられた。
お腹がすいて死にそうだったし、鳥や、怖い野生の動物から身を守るのに必死だった。一緒に産まれた兄弟の何匹かは、いつの間にかいなくなった。
この部屋には200匹以上の同じような境遇の猫がいる。
エサももらえるし、おトイレも掃除してくれる。ボランティアのお姉さんが、ときどき、遊んでもくれる。
狭いオリの中で1日中過ごしているけど、怖かった外の世界に比べると、お腹が減らないだけ幸せだ。
土曜日に、初めて見る男の人と女の人が、僕たちを見て、「可愛いね」と、言っているのを聞いたので、連れて帰って欲しくて、一生懸命、オリにつかまって、鳴いてアピールした。
「次は、茶色の猫にするんじゃなかったの?」と聞く女の人に、男の人は、黙ってボクを見つめていた。
でも、2人は、そのまま帰ってしまった。
他にも人間が、毎日、僕たちを見にやってくる。ここには可愛いネコがいっぱいいる。選ばれるのは奇跡に近い。同じような黒猫だけでも、50匹はいる。もし、選ばれなければ、とても怖いことが待っているらしい。
そばにいる妹は、何もわかっていない。ただじっと黙ったまま、ちょこんとそばに座っている。ボクがなんとかしなくてはならないのだ。
もうあまり時間がないのかもしれない。
1週間後の土曜日、またあの男の人と女の人がやってきた。
「この子たち、まだいたよ!」
話を聞いていると、あの後、いろいろ施設やペットショップをまわり、気になる猫を探していたらしい。
最終的に、もしまだボクたちが残っていたら、アダプトしようと決めていたと。
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